日々の仕事や生活の中で、「本当に大事だが締切がないこと」は後回しになりやすい。将来に大きな影響を与えるのに、なぜ人は取り組まないのか。モチベーションが保てない、やる気が起きないなどの根性と精神論に閉じ込められてきたが、その理由は脳科学や心理学の研究によって次第に明らかになってきた。
1.諸悪の根源は、遅延割引(Delay Discounting)
最大の要因は「遅延割引(Delay Discounting)」である。これは将来の利益を過小評価し、目の前の小さな報酬を優先してしまう人間の傾向を指す。例えば「1年後に英会話できる自分」よりも「今のSNSチェック」が魅力的に思えるのは、脳が即時報酬に強く反応するからである。
人は日々、緊急性が高くて重要性も高いことに 日々振り回されている。
仕事において、日々の忙しい 瑣末な作業に追われ、通勤電車に揺られ、 帰宅後さっと夕食を済ませ、ベッドに入る。そんな毎日が継続し 1年が過ぎる。 その1年がまた 続く。
通勤電車では、当然、ゲーム、SNSとなる。緊急性は高い、低いはあれど、重要性が高いとは言えない。
だが、人生を豊かにするには、 重要性が高く、 緊急性が低いものが多い。
代表例で言えば、ダイエット、禁煙などの健康管理、スキルなど自己資本、将来の金融資本などの投資であろう。
将来的に大切であろうとされているのに、人はなぜ「重要なのに緊急でないこと」を先延ばしするのか。その核にあるのが遅延割引である。
- 今すぐの快楽や小さな成果を過大評価する
- 将来の大きな利益を過小評価する
- 前頭前野の実行機能が弱まると、この傾向がさらに強まる
このため「旅行計画は立てられるのに、長期戦略は苦手」という矛盾が生まれる。旅行は日程や予算といった具体的制約が多く、楽しみという即時の報酬が明確である。一方、戦略やスキル習得は抽象的で、成果が遠いため脳が価値を割り引いてしまうのだ。(価値を下げて考えてしまう)
2. 克服法
今までは『意思と力が弱いから』だとか、『モチベーションが続かない』だとか、自分の内面に課題がある、重きを置いていたが実際にはそうではなさそうだ。
対策として、3つの手法があり、メタ分析でも確認されているので、ここで紹介する。
2-1. EFT(Episodic Future Thinking=エピソード未来想起)
- 人間は未来のことを「抽象的」に考えると弱いが、「具体的エピソード」として思い描くと行動が変わる。ぼんやりと想像しているだけでは実現性がないと言う事らしい。
- EFTでは、将来の出来事を「映画のワンシーンのように」具体化する。
- 例えば、来週の金曜、プレゼン資料を提出し終えて、デスクでコーヒーを飲みながら安堵している自分。
- 数ヶ月後、完成した企画を得意げにチームで共有している自分。
- ポイントは 五感を使って臨場感を上げること(時間・場所・匂い・感情)。
- また、Vision Boardが発達版といえるだろう。
効果
- メタ分析で「EFTをすると遅延割引(目先に流されやすさ)が減る」と確認されている。
- つまり、「未来の自分」を鮮明に思い描くことで、長期目標への動機づけが高まる。
例えば、私の場合では勤め人時代のOB会に最年少で出席して、写真に残る。その写真は社内報に掲載される。とかはイメージしていた。これはほんの一部に過ぎないが。このようなワンシーンのパターンが沢山あると持続性が増すのであろう。
2-2. WOOP/MCII(Mental Contrasting with Implementation Intentions)
- WOOPは、心理学者ガブリエレ・エッティンゲンが開発した自己調整法。
- 4ステップの頭文字:
- W(Wish):望むこと(例:英語で商談をスムーズに進めたい)
- O(Outcome):達成したときの良い結果(例:海外顧客からの信頼が増す)
- O(Obstacle):現実にある障害(例:夜になると勉強が面倒になる)
- P(Plan):障害に対処するIf–Thenプラン(例:「もし夜に疲れていたら、コーヒーを淹れて30分だけ文法復習をする」)
- MCIIとは、「心的コントラスト+実行意図(If–Then)」を組み合わせた正式名称。
- コントラスト=良い未来を思い描くだけでなく、「現実の障害」と必ず対比する。
- これにより「夢想」ではなく「実行」に結びつく。
効果
- メタ分析では、WOOP/MCIIは自己規制行動を改善する中小~中程度の効果が確認済み。特に「やる気が弱い」「習慣を変えたい」人に効きやすい。
これらは自身意識して取り組んで来なかったので、今後、実践していこうと考える。
3.まとめ
1.重要で緊急性の低いことに取り組めない理由は、内面的な要因ではなく、遅延割引だった。
2.遅延割引を排除するには、そうなった自分を映像レベルまで可視化する。
3.そのための行動が上手くいかなかった時(障害)にif-then ルールを当て込む